はじめに
人材確保や設備投資を行いたい企業、特に中小企業にとっては助成金が受給できれば重要な資金源となります。助成金は、政府や地方自治体など助成主体が実現したい方向性・方針を促進させる取り組みを行う企業に支援がなされるものですので、当該助成金の意図や目的をよく理解して取組を実施・申請することが受給率の向上につながります。今回は職場環境整備のために活用できる今注目の助成金について社会保険労務士が解説します!
今おすすめの助成金
政府の方針として、多様な働き方の促進と、人への投資が重点投資分野とされていることもあり、助成金も労働時間短縮や休暇取得の促進、従業員の学び直しやスキルアップに対する取り組みを評価するものが制度継続、助成額が高くなる傾向にあります。
特に今注目の助成金としては、東京都内の事業所に限られますが「魅力ある職場づくり推進奨励金」というものがあります。これは都内の中小企業が従業員の働き甲斐向上にむけて職場環境づくりや賃金の引き上げを行った場合に受給できる助成金です。
「魅力ある職場づくり推進奨励金」の概要
1.事業の概要と目的
都内の中小企業等が、派遣された社会保険労務士の指導のもと、新たにワーケーション制や社外副業制度、資格取得支援制度など複数の対象事業を実施した場合に最大100万円が助成されるものです。従業員が仕事へのやりがい・働き甲斐を感じられる職場環境を作ることで、組織や仕事に貢献する意欲を高め、結果として企業の生産性が向上することを目的としています。
2.対象となる取組内容
以下の(1)から(10)までの取組から2つ以上を選択して制度を構築・実施します。
◆従業員のエンゲージメント向上に向けた取り組み
制度を構築し、就業規則や規程を新たに整備すると1項目に対し10万円、上限40万円が助成されます。
(1)フレックスタイム制
(2)選択的週休3日制
(3)ワーケーション制度
(4)社外副業・兼業制度
(5)人材育成方針の策定と目標管理・キャリア面談制度
(6)社内メンター制度
(7)リスキリング・資格取得支援制度
(8)外部キャリアコンサルタント活用支援制度
(9)従業員表彰制度・報奨金制度
◆賃金引上げの取組
賃上げを実施すると、従業員1人当たり6万円、上限60万円が助成されます。
(10)時間当たり30円以上の賃上げ
3.受給の手続きの流れ
Step1事前エントリー
決められた期間内にインターネットで事前エントリーが必要です。エントリー多数の場合は抽選となります。当選しなかった場合は時期以降に再度申し込むことができます。
Step2 企業情報の登録
企業情報を登録するとともに、申請要件等確認書類をアップロードすることで提出します。不備があった場合は修正提出を求められることがありますが、追加提出はできませんので注意が必要です。
Step3 社会保険労務士の派遣
助成主体が選定した社会保険労務士が事業所に2回派遣され、人事労務管理上の課題や目指したい方向性、自社にあった制度の構築について相談します。構築する制度について社会保険労務士の助言に基づいて就業規則等に記載します。2回の相談が終了したら終了報告を行います。
Step4 対象事業の登録と取組目標の設定
前述の(1)~(10)のなかから導入する制度・実施する取り組みを2つ以上選択し登録します。自社が目指す最終的な目標と、各制度の具体的な運用目標を設定します。実施する取り組みが賃上げの場合は賃上げする従業員の人数を設定します。ここで登録した制度・取組と人数に応じて支給上限が決まりますので、少しでも実施する可能性があるものはすべて登録しておくことが必要です。
Step5 対象事業の取組・実施
選択した対象事業が前述(1)~(9)の取組の場合は、実施期限内に労使協定の締結と就業規則の改定・周知・届出を行います。この際、(1)フレックスタイム制度以外は必ず労使協定の締結後、就業規則を改定する順番で行います。(フレックスタイム制度は就業規則改定後労使協定を締結します。)労基法に定められた制度以外についても(1)~(9)のうち導入するすべての制度について労使協定の締結が必要になりますので注意が必要です。選択した対象事業が、賃金引上げの取組の場合は時間当たり30円以上の賃金の引上げを行い、引上げ後の賃金を6か月以上支払います。
Step6 取組の報告と支給申請
申請期限内にインターネットで取組の報告と支給申請を行います。締結した労使協定や就業規則、賃上げの場合は雇用契約書や賃金台帳などを提出します。
Step7 奨励金支給額の決定と口座振替依頼書郵送
審査の結果支給と支給額が決定すると、印鑑登録証明書を添えて奨励金請求書兼口座振替依頼書を郵送します。
4.申請対象となる事業主の要件
事業主については、以下の要件をすべて満たす必要があります。
①都内で事業を営んでおり、常時雇用する労働者が300人以下の中小企業であること。
(都内税務署へ開業届を提出している個人事業主、公益法人等を含みます)
②都内に勤務する常時雇用する労働者(雇用保険被保険者)を1人以上、かつ6か月以上継続して雇用していること。
③就業規則を作成して労基署に届出を行っていること。
④労働関係法令(以下イからホ)を全て満たしていること。
イ.最低賃金を上回る賃金を支払っていること
ロ.固定残業代の時間当たり金額が時間外労働の割増賃金に違反しておらず、固定残業時間
を超えて残業を行った場合は超過分が追加で支給されていること。
ハ.36協定を締結し、全労働者に対し協定で定める上限時間を超える時間外労働をさせていないこと。
ニ.年次有給休暇の年5日を取得させる義務に違反していないこと。
ホ.その他賃金や労働時間等に関する労働関係法令を遵守していること。
⑤都税(法人事業税及び法人都民税、個人の場合は個人事業税及び個人都民税)の未納付がないこと。
⑥過去5年間に重大な法令違反等がないこと。
➆厚生労働大臣の指針に基づき、セクシュアルハラスメント等を防止するための措置をとっていること。
⑧風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する事業及びこれに類する事業を行っていないこと。
⑨暴力団員等に該当する者でないこと。
⑩本奨励金もしくは助成内容が同一と認められる奨励金等を利用又は受給したことがないこと。
終わりに
「魅力ある職場づくり推進奨励金」は東京都内の事業主を対象とするものですが、週休3日制や副業の推進などこれから注目の柔軟な働き方もいち早く対象としており、また最低賃金額の引き上げと同等の賃金引上げや、労働者のスキルアップの支援といった取り組みやすい対象事業も多いため、今注目の助成金です。
この助成金の最大のポイントは、労務関係の専門家である社会保険労務士の相談・助言を必須とすることで、事業所ごとの労務課題に応じた取り組みを選定し、制度の実施方法を労使協定・就業規則に定めることで、労使双方が合意の上で進める仕組みにあります。
今まで社会保険労務士と関わりがなかった企業も、この助成金を活用して職場環境の整備を行うだけでなく、社会保険労働保険関係の専門家である社会保険労務士と一緒に自社の労務課題を見直すよい機会にもなります。ぜひ一度ご検討ください!
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