企業における解雇は、人事労務の中でも特にデリケートかつ慎重を要する業務の一つです。手続きを誤ると不当解雇として訴えられたり、裁判所で無効と判断されるリスクが高まります。
人事労務担当者としては、法的に認められる「解雇」の要件や、適切な手続きの進め方を正しく理解し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。
本記事では、解雇の基本的なルールや注意点、解雇をめぐるトラブル事例などを、初心者にも分かりやすく解説します。
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目次
解雇とは
解雇の定義
解雇とは、使用者(企業)が労働契約を一方的に解除することを指します。一般的には「会社が従業員をクビにする」と言われる行為ですが、法律上は「労働契約の終了を、使用者都合で行うこと」と定義されます。
対象:正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員などすべての労働者
形式:口頭通告ではなく、書面で解雇理由を明示するのが望ましい(法律上、解雇した従業員から請求があった場合に「解雇理由証明書の交付義務」あり)
労働契約法と解雇の規制
日本の労働法制では、従業員の地位を保護するため、解雇は原則として厳しく制限されています。
労働基準法第15条1項
使用者が従業員を採用する際、解雇事由を含む労働条件を明示しなければならない。
労働契約法第16条
解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となる。
労働基準法第19条
従業員が業務上負傷、または病気になり治療するために休業する期間とその後の30日間は原則として解雇をしてはならない。また、女性従業員の産前・産後休業期間とその後の30日間も原則として解雇してはならない。
労働基準法第20条
従業員を解雇する場合は、解雇予告(30日前)または解雇予告手当(30日分以上の賃金)を支払う義務が発生する。
労働基準法第89条
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。また、これに退職に関する事項(解雇の事由を含む)を記載しなければならない。
労働基準法第104条
従業員が労働基準法違反として労働基準監督官に申告したことを理由に解雇、その他の不利益な扱いをしてはならない。
解雇の種類
解雇にもいくつか種類があります。ここでは代表的なパターンをまとめ、その要件を概説します。
普通解雇
普通解雇とは、能力不足・勤務態度不良・重大な違反行為など、会社が継続して雇用しがたい合理的理由がある場合に行われるものです。
例
業務上必要な技能や資格を著しく満たさず、改善も期待できない、長期にわたる勤務態度の悪さ・指示違反が繰り返される など
注意点
単に「能力が足りない」とか「合わない」という理由だけでは不十分。十分な指導や配置転換などの対応をした上で、なお改善が見込めないことを示す必要がある。
懲戒解雇
従業員が重大な服務規律違反や不正行為など、企業秩序を脅かす行為を犯した際に、懲戒処分としての解雇を行うケースを指します。
例
横領、暴行、機密情報の不正持ち出し など
注意点
懲戒解雇は労働者に極めて重い処分であり、就業規則に懲戒事由を明確に規定し、手続を適正に進めることが求められます。また、軽微な違反でいきなり懲戒解雇は濫用とみなされる可能性が高いです。
整理解雇(リストラ)
会社の経営上の都合、業績不振などで人員削減を行う場合の解雇です。通称「リストラ解雇」といい、以下の要件を満たす必要があります。
要件
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力を尽くしたか(配置転換・希望退職募集など)
- 人選の合理性
- 手続きの妥当性(労使の十分な協議)
注意点
経営が苦しいから即解雇、ではなく、「退職金上乗せの希望退職募集」や「役員報酬や余剰経費の削減」などあらゆる対策を講じた上で、最終手段として整理解雇を行う必要があります。
客観的に合理的な理由がない場合は?
上記いずれにも該当せず、会社の一方的な都合や「人間関係が悪いから」「上司と気が合わない」という程度では解雇は認められません。解雇通知を出しても、労働審判や裁判で無効判断となり、従業員が職場復帰を求めたり、賃金相当額の支払いを命じられるリスクがあります。
解雇手続きの進め方
解雇を行う際は、手続き面を適切に進めることが極めて重要です。以下は一般的なステップ例です。
事前の注意・指導・配置転換などの実施
能力不足や勤務態度不良を理由に解雇する場合、いきなり解雇は避け、複数回の面談や指導を実施し改善の機会を与える必要があります。懲戒解雇に近い事由でも、就業規則に基づく懲戒手続きを踏むことが大切です。
「会社として指導したが改善しない」という状況が客観的にわかる資料を用意するなど、証拠の保全として、面談記録や書面・メールのやり取りを残しましょう。
解雇予告または解雇予告手当
労働基準法では、少なくとも30日前の解雇予告か、または30日分以上の平均賃金を手当(解雇予告手当)として支払うことが義務付けられています。
例外
日雇い労働者、試用期間中14日以内の解雇、契約期間が2ヶ月以内など、特定のケースに限り適用除外
懲戒解雇でも基本的には解雇予告が必要です。懲戒解雇で解雇予告手当なしの即時解雇を行うには、労働基準監督署に「解雇予告除外認定申請書」を提出し、認定を受ける必要があります。
解雇理由証明書の交付
従業員が請求した場合、会社は解雇理由証明書を交付しなければなりません。これは会社側の解雇理由を明文化するものです。
曖昧な文章だとトラブルの元になります。具体的な事実経過を明記し、就業規則上のどの規定に抵触するかなどを整理しましょう。
退職時の残務処理
解雇通知をした後は、退職金の支払い(該当があれば)や最終賃金の精算、社会保険の資格喪失手続きなどを行います。また、会社貸与物の返却(制服・PC・社章など)や機密情報の取り扱いにも注意しましょう。
トラブル事例と回避ポイント
事例1
ある企業が、営業成績が低い社員に辞めてほしいという理由だけで解雇。しかし、十分な改善指導や配置転換がなく、裁判所で不当解雇と判断され、会社は解雇した期間分の賃金を支払うよう命じられた。
回避策
成績不振が理由なら、具体的目標や改善指導・研修を複数回実施し、それでも改善できないことを客観的に証明。さらに就業規則に「業務不適格による解雇」など定めがあるか確認。
事例2
試用期間中に「向いていない」と判断して即日解雇し、解雇予告手当を払わなかったケース。実際には試用期間が14日を超えており、法的には解雇予告が必要とされた。結果、従業員が労働基準監督署に申告し、会社が是正指導を受けた。
回避策
試用期間の設定を就業規則で明確化し、14日を超えたら解雇予告義務が発生することを認識。解雇するなら30日前予告か予告手当を用意。
解雇回避策を検討する
解雇を回避する手段を検討することは、労務トラブルを最小限に抑える上で有効です。以下のような方法で「解雇以外の選択肢」がないかを再考してみましょう。
- 配置転換や部署異動: 本人が適正を発揮できる部署へ異動。
- 研修・再教育: スキル不足であれば研修機会を増やす。
- 希望退職(早期退職)募集: 業績不振ならまず希望退職の募集を行い、応募者に割増退職金を支給して円満退職してもらう。
- 休職制度活用: 病気やメンタル不調の場合は休職・療養を支援し復帰を目指す。
会社としても解雇は最終手段です。これらの手段を経ずに解雇に踏み切ると、「解雇無効」のリスクが高まります。
まとめ
人事労務担当者としては、解雇に至るまでのプロセスを適切に管理し、就業規則や法令で定められたルールを遵守していくことが不可欠です。解雇は従業員の人生に大きく影響する重大な行為であり、法律上も厳格に制限されています。しっかりと把握しておきましょう。
ぜひ、今後の人事業務の参考にしていただければ幸いです
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