「無期転換ルール」とは、有期雇用契約で働く労働者が、一定期間以上契約を更新し続けると、無期雇用契約(正社員と同様の“期間の定めがない”契約)へ転換する権利を得る仕組みのことです。これは労働契約法によって定められており、特に5年を超えて契約更新が行われた場合、労働者は無期契約への転換を申し込むことができるようになります。また、申し込みがあった場合、使用者(企業)はこれを断ることができません。
本記事では無期転換ルールの詳細や適用範囲、実務上のポイントを初心者にもわかりやすく解説します。
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目次
無期転換ルールとは何か?
無期転換ルールとは、2013年4月に施行された改正労働契約法によって導入された仕組みです。具体的には、同一の事業主との間で有期雇用契約を通算で5年を超えて繰り返し更新した場合、労働者は使用者(企業)に対して無期雇用契約への転換を申し込むことができ、その申し込みがあった時点で、次の契約からは無期雇用契約へと転換されます。(使用者はこれを断ることができません)
主な目的は、有期雇用契約で働く労働者が、契約更新を重ねることで不安定な雇用状態に陥ることを防ぎ、安定的な労働環境を確保することにあります。無期雇用契約になれば、契約更新の不安がなくなり、「期間の定めのない」雇用へ移行できるわけです。
なぜ無期転換ルールが導入されたのか?
日本では、非正規雇用者(有期契約労働者、パートタイマー、派遣社員など)が増加傾向にあり、長年同じ職場で働いていても有期契約のまま更新を繰り返すケースが多く見られるようになりました。このような状況では、労働者側は常に「次の契約は更新されるか?」という不安を抱え、正社員と同じ内容で労働をしているにも関わらず、労働者としての正当な権利が抑圧されたり、経済的な自立やライフプランが立てにくくなります。無期転換ルールは、こうした長期にわたる不安定な雇用を減らすために導入されました。
有期契約であっても一定期間働いた後には、期間に定めのない安定した雇用形態に移行する機会が与えられることで、長期的なライフプランを立てやすくなると考えられています。
無期転換ルールの適用条件と仕組み
対象となる雇用形態
無期転換ルールは、基本的に有期雇用契約(期間を定めて雇用する契約)で働く労働者が対象です。契約社員、嘱託社員、アルバイト、パートタイマーなど名称は問わず、有期契約であれば形態は問いません。
ただし、派遣労働者の場合、派遣元企業との契約関係が有期なのか無期なのかがポイントとなります。派遣先との契約は派遣元企業が行っているため、あくまで派遣元との雇用契約が有期かどうかを確認してください。
通算契約期間のカウント方法
無期転換ルールが適用されるためには、「同一の使用者との間で有期契約を繰り返し更新し、通算期間が5年を超える」ことが条件です。
「通算5年を超えた契約の更新」があった時点で、労働者は無期転換申込権を得ます。申込があった時点で、次の契約からは無期契約へ転換されることになります。
無期転換後の労働条件はどうなる?
無期転換ルールによって有期から無期へ転換した場合、労働協約や就業規則、個々の労働契約で定められていない限り、基本的には「転換前と同一条件」となります。
だだし、令和6(2024)年4月1日から、無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時において、使用者は「無期転換後の労働条件」を労働者に対して書面で明示することが義務化されました。
また、無期転換後の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者との均衡を考慮した事項について説明するよう努めることとされています。
無期転換ルールが適用されないケースについて
クーリングについて
労働者と使用者(企業)間で一定期間以上有期労働契約を締結していない場合、それ以前の契約期間が通算期間から除外されることを、クーリングと呼びます。
無期転換ルールにおいても、以下の条件でクーリングが適応されます。
クーリングとなる条件
無契約期間の前の通算契約期間 | 無期契約期間 |
1年以上 | 6ヶ月以上 |
10ヶ月超〜1年未満 | 6ヶ月以上 |
8ヶ月超〜10ヶ月以下 | 5ヶ月以上 |
6ヶ月超〜8ヶ月以下 | 4ヶ月以上 |
4ヶ月超〜6ヶ月以下 | 3ヶ月以上 |
2ヶ月超〜4ヶ月以下 | 2ヶ月以上 |
2ヶ月以下 | 1ヶ月以上 |
※5年を超えないように契約打ち切りはできる?
無期転換ルールを避けるため、5年未満の段階で契約を打ち切ることは可能かもしれませんが、これは労働者にとって不利益となる行為であり、濫用的な雇い止めとして労働紛争の元になる可能性があります。安易に「5年未満で打ち切る」といった対応はリスクが高いことを認識しましょう。
定年後再雇用者の特例
無期転換ルールは、基本的に、定年後引き続き雇用される有期雇用労働者についても適応されますが、有期雇用特別措置法により、以下の条件を満たしている場合、特例として、無期転換ルールが適応されなくなります。
<条件>
- 適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主の下であること
- 定年に達した後、引き続いて雇用される有期雇用労働者(継続雇用の高齢者)であること
高度専門職の特例
また、高度専門職についても有期雇用特別措置法により、特例が設けられています。特例が適用されれば一定の期間、無期雇用ルールが適応されなくなります。詳しくは「厚生労働省 「高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について」」をご確認ください。
特例の条件は以下の通りです。
<条件>
- 事業主との間で締結された有期労働契約の契約期間に、その事業主から支払われると見込まれる賃金の額を、1年間当たりの賃金の額に換算した額が、1,075万円以上であること
- 次のいずれかにあてはまる方
①博士の学位を有する者
② 公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士または弁理士
③ ITストラテジスト、システムアナリスト、アクチュアリーの資格試験に合格している者
④ 特許発明の発明者、登録意匠の創作者、登録品種の育成者
⑤ 大学卒で5年、短大・高専卒で6年、高卒で7年以上の実務経験を有する農林水産業・鉱工業・機械・電気・建築・土木の技術者、システムエンジニアまたはデザイナー
⑥ システムエンジニアとしての実務経験5年以上を有するシステムコンサルタント
⑦ 国等(※)によって知識等が優れたものであると認定され、上記①から⑥までに掲げる者に準ずるものとして厚生労働省労働基準局長が認める者
企業側の対応について
企業側(使用者側)としては、無期転換ルールが適用された時のことを考えて、事前に、その対応策や制度整備を行っておきましょう。
契約内容の管理の徹底
契約期間の管理や更新履歴の記録を正確に行い、通算期間を正しく把握することが必要です。また、契約書にも無期転換後の労働条件を明確に記載しましょう。
就業規則や労使協定の整備
無期転換後の処遇や賃金体系、労働時間などを明確にするため、就業規則や労使協定でルールを定めておきましょう。無期転換された労働者の処遇が曖昧だと、後々、処遇格差などで問題になることがあります。
人材活用戦略の一環として検討
無期転換制度を単なる義務ではなく、人材確保・定着のチャンスととらえることもできます。スキルのある非正規社員を無期化することで、企業内部に安定した人材基盤を築くことも可能です。
労働者側の対応について
権利行使のタイミングに注意する
通算5年を超えた段階で無期転換権が発生しますが、いつ行使するかは労働者の自由です。ただし、権利行使を後回しにしているうちに契約が終了してしまうと、転換チャンスを失う可能性もあります。契約更新の時期や就業条件を見定めて、適切なタイミングで行使すると良いでしょう。
無期転換後のキャリアを考える
無期転換権を行使すると、その後は期間の定めがなくなりますが、労働条件は基本的に同じまま引き継がれます。昇給や業務範囲拡大などを希望する場合は、無期転換後に所属先の上司や人事と相談してみると良いでしょう。
情報収集と相談先の活用
無期転換ルールについて不明点があれば、厚生労働省や労働局の公式サイト、または労働相談コーナーを活用しましょう。公的機関への相談は無料で行える場合がほとんどです。
無期転換ルールに関するQ&A
Q1. 無期転換の申し込みをしたら、会社が拒否することはできますか?
A1. 労働契約法上、会社が正当な理由なく無期転換を拒否することはできません。
Q2. 無期転換後は正社員と同じ契約内容に変わりますか?
A2. 基本的に転換前と同一条件となります。昇給や業務範囲拡大などを希望する場合は、無期転換時に会社に相談してみてください。
Q3. 無期転換ルールについて企業から従業員に説明しなければなりませんか?
A3. 令和6(2024)年4月1日から、無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時において、使用者は「無期転換後の労働条件」を労働者に対して書面で明示することが義務化されました。また、無期転換後の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者との均衡を考慮した事項について説明するよう努めることとされています。
Q4. 会社に無期転換しようと申請したところ、無期雇用しないという会社の方針に従えないのであれば雇止め・解雇すると言われました。これは違法ではないのでしょうか?
A4. 無期転換の申込みをしたときは、使用者(企業)はこの申込みを承諾したものとみなされ、申込みの時点で、申込時の有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日を始期とする無期労働契約が成立します。企業側はこれを拒否することができません。なので、仮に裁判となれば、企業側が負ける可能性が高いです。
まとめ
「無期転換ルール」は、有期雇用契約で長期的に働く労働者に安定的な雇用形態への道を開くための制度です。通算5年を超えれば無期転換を申し込む権利が発生し、申し込み後は期間の定めのない契約が実現します。これにより、働く側は契約更新の不安から解放され、長期的なキャリア形成がしやすくなります。
企業側にとっても、無期転換制度は避けられないルールであり、人材確保や活用戦略の一部として前向きに取り組むことが重要です。ただのルールだと思わずに、無期転換後の処遇やキャリアアップの仕組みを整えることで、優秀な人材を定着させ、組織全体の生産性・安定性向上につなげていきましょう。
今後、有期契約で働く方々は、自身の通算契約期間を把握し、5年を超えた際には無期転換の権利を有効に活用しましょう。その際、不明点や不安があれば専門機関や社内外の相談先を積極的に利用し、自分に合った働き方やキャリアを築いていくことが大切です。